|
〈絵本の森〉物語
朗読・michiko
7:記憶の輪、夢の行列
|
神鹿らしいシカと御来迎。 |
今月は行列と、あと哲学のお話かな。だいたいこれでボクたちの質問は終わる予定だけど、まあどうなるかよくわからない。〈現場〉のかんかくとしては、ずうっとこのままいつまでも続くみたいな感じもあるよ。だいじなお話で、とってもおもしろいから、長居してもいいかな、みたいなかんかく。どうなるか、いっしょに見てみようね。
「じゃあつぎは、ぎょうれつのお話をしようね。どうしてボクのところに、たくさんの生き物たちがやってきたか、精霊たちもいたし、神様までいた。でもだんだん少なくなって、きょうはどうやらその最後のお一人、風のヒコ神様が大空にもどられたみたいだ。それはね……おそらく、こういう絵と関係してると思うよ。」
ヨシはまた、新しい絵を見せてくれた。立派なシカが一頭、山頂でお日様をおがんでる絵(挿絵29)。すがすがしい感じがするから、きっと朝日だと思う。
「そう御来迎だよ。山並みは屋久島っていう、ずっと南にある島なんだ。島ぜんたいが大きな大きな岩でできてる。」
「なんだか……神様の使いのシカみたいね。そういうこと、むかしあったんでしょ。」
リリーもお日様大好きな子だから、目をほそめながら、立派な朝日を見てた。
|
縄文杉と神鹿。 |
「そうだね神鹿(しんろく)っていう言葉があるよ。大きな神社でたくさんのシカを養ってたりするから、やっぱり関係があるみたいだね。それでね、この屋久島には、縄文杉っていう立派な古い杉があって、こっちももうほとんど神様なんだ。島にはじっさいにシカも暮らしてるから、時々その杉の神様にお参りに行ってるみたい。こんな感じ。」
ヨシはまた一枚見せてくれた。大木の杉と立派なシカ。なんだかたしかに杉の神様にお参りしてる神様の使いみたいだった(挿絵30)。
「それでね、こういう絵は、屋久島の縄文杉についてのお話を考えた時に描いたんだ。そのお話は木や植物、お花が大好きな女の子と、不思議な男の子のお話なんだけど、縄文時代の思い出も少しだけ出てくる(『縄文杉物語』のことだよ)。男の子が神社とかにすごく近い子でね。もともとボクは縄文時代にすごく興味があって、研究っていうほどじゃないけど、長いあいだいろいろ調べてきた。そしてその〈成果〉みたいなのを、〈じゅんすい童心物語〉として試したかったんだよ。それがこの作品。それでその先には〈縄文物語〉そのものがあった。それはね……どういう風に言ったらいいかな……お日様の死と蘇りと深く関係してたんだ。だからそういうことを調べ始めてたらね、ある日、あの行列が玄関前にできてたんで、ボクもびっくりしたんだよ。」
「お日様も……死んで蘇るの? 冬至とかのお祭りのこと? 聞いたことあるけど……ここじゃしなくなってるし……」
リリーがちょっと小首をかしげた。でもなんかもどかしそうなところもある。なんだか大切なことを思い出そうとして、のどもとまで出かかってることが、なかなか出てくれない、みたいな。ボクもね、ちょうどそんな感じがしてたよ……
ヨシは、そんなボクたちをじっと見てたけど、こんどはちょっと思いがけないことを聞いた。
「だいぜつめつの話、聞いたことある? あと……地球がスノーボールっていう、白い雪と氷のかたまりになったっていうお話。」
ボクとリリーは顔を見合わせた。
「SF映画? キビオとか、時々スマホのサイトで見てるけど……」
これはボクも同じ方向だった。そういうことなら、きっと映画にはなってるだろうけど……
「うん、映画にもなってる。でも大元は事実なんだよ。地史上の事実。」
ヨシは説明をはじめた。地球にぼくたち生き物が誕生して、もう四十億年?そのくらいになるって言われてるけど、この四十億年のあいだに、生き物がほとんど(九割以上だよ)絶滅した時代があって、それがなんと五回くらいもあるんだって。そのうちの一回は大きな隕石が飛んできて、ものすごく長い〈隕石の冬〉っていうのが続いて、生き物の九割じゃないけど、あの恐竜のほとんどが死んでしまったらしい。悲しいことだよね……それが〈直近の〉大絶滅なんだって。
スノーボールの方は、〈全球凍結〉って言われてて、気候のバランスがめちゃくちゃくずれると、地球全体が凍りつくんだって。真っ白のかちかちのかたまりになる。もちろん生き物はほとんどまた死んでしまうわけだよ(だから大絶滅と重なるんだろうね)。これが、だいたい三回くらいあったみたい……
ボクたちは、なんだかぼんやりしてしまった。こうしてここに生きてて、いまヨシと楽しくお茶してることが、ものすごくまれな、奇蹟みたいなことに思えてしまったからかもしれない……
ヨシは、そんなボクたちをじっと優しい目で見てたけど、ちょっと笑ってこう続けた。
「でもね、こうしてボクたちは生きてるだろう。そして四十億年前よりも、二十億年前よりも(最初の大絶滅だよ)、ずっとにぎやかに、楽しくやってる。まだまだいのちは続くぞ、どんどん楽しくなるぞって感じながらね。それはね、またネオテニーと……そう、すごく単純だけど、やっぱりそのつどの生き物たちの力、童心たちの力なんだ。その力で、まったく新しいかんきょうへの出発、探検、冒険、そして次の大飛躍が起きた。だからこうしてボクたちはここにいるんだよ。それでね、スノーボールのことでもわかるように、そういう時は、地球から見たら、たいせつなお日様がほとんど青ざめて死にかけてるみたいに見える。大絶滅の大元は、火山の大噴火のことが多いんだけど、その場合でも、〈火山の冬〉っていうのが破局の最大の原因で、それはけっきょく、お日様の光が地上にとどかなくなることだからね。」
そうか……お日様は大きな火で、ボクたちのからだの中の小さな火とつながってる……それはいろんな生き物がそう感じてることだし、まあじょうしきみたいなものだけど……ふたつはかたくつながってる。だから大きな火が消えかけたら、ボクたちの火も消えかける、消えてしまうことだってある……これはやっぱり「りのとうぜん」なんだろうね。こわくて……でもうれしいかな。だってボクの小さなからだが、あのすばらしいお日様とげんじつに、じじつとして、このひとつの世界で、ひとつながりになってるってことだからね。
「なんか、お日様をおがんですごくうれしくなる気持ちも、そういうことと関係してるんだろうね。死にかけたお日様、またよみがえってボクを照らしてくれてありがとうございます、みたいな……うまく言えないけど。」
ボクがこう言うと、リリーもすぐ賛成してくれた。
「あ、それわたしも感じる。ほら、ここだって雪降るとけっこう寒いでしょ。雪の日のお日様は、見えたり見えなかったり。見えても青ざめてらっしゃる。でもね、それでも薄日がさすと、ああ、また春が必ずくるんだなって、きぼうっていうの?しんこう?そんなのを感じる。あ、ヨシには話したことあるよね。」
「うん、聞いたよ。すごくいい話だなって思って、絵を描いておいた。」
|
雪原のリリー。 |
ヨシはまた書斎に行って、しばらくごそごそやってたけど、「ああ、ここにあった」と言いながらもどってきた。見るとたしかにリリーの絵。雪の原でちょっとこごえながら、でもぼんやりなんだか夢見てるみたいな絵(挿絵31)。ボクはすぐあの、〈ぽかぽかおひさま〉にいのってた、ライチョウのお母さんを思い出したよ。
ヨシはもう一枚、書斎から絵をもってきてた。それを雪原のリリーの絵に並べる。冬の日の湖で、コハクチョウのカップルがしんみり向き合ってる、そういう絵(挿絵32)。なんとなくつながりがわかった気がした。リリーは、雪原で春のお日様を思って、ぼんやりしてる。このコハクチョウのカップルは、冬の弱いお日様の光の中で、でもお日様が照ってることにほっとして、しんみりしてる……
|
冬のお日様とコハクチョウのカップル。 |
「つまり……冬のお日様を見ると、春とか夏よりもずっと、お日様ありがとうございます、おかげで生きていますって気になる。たしかになんだか不思議ね。」
リリーがこう言ったんで、ボクもああそうか、たしかにそうだなって感じたよ。ボクは北の海に行って、たくさんお魚を食べて一年分の体力をつけるんだけど、そういう時のお日様はやっぱり冬のお日様で、すごく弱々しく見えることもある……でもそこにいてくれるから、すごく安心っていうか……うまく言えないけど……
「だから冬至のお祭りがあるのね。冬至って……お日様が死にかけてるみたいなところあるから……また力が増していくお日様を見て、ほっとする、そういうお祭りなのね。」
ヨシは、人間もそういう風に冬至のお祭りをしてるって教えてくれた。しんわとかでんせつには、死にかけたお日様とか、大きな洞窟にかくれてしまうお日様とか、そういうお話がとっても多いんだって。
「そういうのはね、ボクはあのトバ火山の大噴火、〈火山の冬〉、そして人類絶滅ぎりぎりまでいった、こんぽんのトラウマと関係してると思う。じつは縄文の人たちも、そういうトラウマを持ってたから、お日様をとっても大事にして、いろいろな神事をとりおこなった、そういう形跡がある。石とかをぐるっと丸く並べて、その隙間から冬至のお日様をながめたりね(他の国では、ストーンヘンジって言ったりするんだよ)。それでそういう根本のトラウマと、そこからの治癒みたいなことを中心にして〈縄文物語〉を書くつもりでいた。それでまずあの『縄文杉物語』を仕上げて、そして〈聞き取り調査〉に入った。ここいらはね、縄文文化がかなり栄えたあたりなんだよ。だからその当時のことを覚えてる生き物とか精霊たちとか、ひょっとして神様も協力してくれるかなって思ったんだけど……」
|
カンボジアの冬至のお祭り。 |
ヨシはなにか思い出したみたいで、くすくす笑った。それからまた絵を一枚見せてくれた。あのカンボジアの王様に関係した絵だよ。その王様が、冬至の次の日に生まれたみたいで、その聖誕祭の前夜祭みたいにして、冬至のお祭りを生き物みんながやってるんだって(挿絵33)。こういう歌をみんなで歌いながら、その〈聖誕石〉の周りを、右回りに回っていくと、夕日の中に菩薩様の姿が浮かび上がるんだよ。
〈(独唱)
たくさんの たくさんの いのちがあつまり
ゆめをつむぎ まことをつくして いきてまいりました
(合唱)
たべて ねて おきて あるいて とんで はしって
すべて まことの いのちのせいかつ にょらいさまの みこころのまま
(独唱)
おおくの おおくの ゆめのなごり
はたせなかった まことのゆめ
(合唱)
はたせぬは とがにあらぬと にょらいさまはもうされ
はたせぬゆめを ひとつにつなぐ すべをさずけられ
(独唱)
そしてまた じゃきのまどわし くるしみの
いかりの しゅらの もうねん おお おそろしの いのちのくるしみ
(合唱)
それもまた とがにあらぬと にょらいさまはさとされ
くるしみのおわり じゃくじょうのきよさを おしえられ
(独唱)
つみをはらい じゃきをはらい にょらいさまはせかいのきよさを
たもたれ えんのいとを つなぎあわされ よみがえりを そのよみがえりを
(合唱)
そのよみがえりを こころまちに こうしてひとつのいのちの
つながりを そのつながりを つむぎつつ
(独唱)
そのつながりを こころにうけとめ
ことしもぶじに くれていきます
(斉唱)
にょらいさま だいちのいのちの そのみなもとを おまもりになる
にょらいさま うちゅうのおもいの そのみなもとを おまもりになる
ただひとつの このまつり
そしてむすうの ひとつのまつり
そのまつりを いのちのよすがに じゃくじょうのこころ
かんきのこころ じゃきをすてさる そのきよきこころを
しっかりとまもって ひとめぐりのおわりに
ひとつながりの としをすごして またにょらいさまを おまちしております〉
ね、なんかほんとうにしんみりするお祭りだよね。ヨシはお話を続けた。
「これを見たのはもう二十年くらい前だよ(こころの目で見たっていうことだけどね)。〈縄文物語〉を書こうって思い立ったのは……そう五、六年前だから、当然この冬至の聖誕祭を思い出すべきだったのに……〈人類史ファンタジー〉の方に連想がひっぱられてね……一言で言って、人間のことばっかり考えてたみたいだ。」
ヨシはちょっと頭をかいた。つまり……こういうことらしい。トバ火山の噴火で滅びかけた人間は、〈げきへんしたかんきょう〉に「さいてきおう」(こう言うんだって)して、森に出発していった。つまり世界中に散らばっていったわけだね。その時、この〈死んで蘇るお日様〉のイメージっていうの?しんこうかな?ともかくそういうトラウマからの〈癒し〉みたいのを大切にして、ひたすら新しい世界に向かったんだって。
「それがね、北に行った人たちもいたけど、大部分は東へ東へ、なんだよ。陸地の果てに来ると、今度は船をつくって(世界でさいしょの船だよ)また東へ東へと向かった。もうそのころは人類史全体が冒険そのものだったんだ。なぜ東へ向かったのかなってボクはちょっと考えてね、ああ、そうかってわかった。」
「東……日の出、お日様の生まれるところ?」
リリーがつぶやいた。ヨシは笑ってリリーの頭をなでてあげた。ボクもピンときたよ。お日様がのぼってくる海は、ボクも大好きでね。あの東のその先になにがあるのかなって、いつもなんだかわくわくしてしまう……ということは、キミたち人間もそういう風にわくわくしながら、東へ東へ向かったのかもしれないね……
「ね、なんかつながりが分かってくるでしょ。お日様の生まれる場所に向かう旅、それが人類の〈グレートジャーニー〉(そう呼ばれてるんだけど)のきゅうきょくの目的だったんだ。ボクはそう感じる……」
ヨシはちょっと宙に目を走らせた。
「それでね、大きなつながりがわかるとだれでもうれしくなるから、ボクはちょっとなんていうか……得意満面っていうか、そういう心境でね。お日様の死と誕生をめぐる、すばらしい〈縄文物語〉が、もう耳の中で聞こえはじめたみたいで、すごくうれしかったんだけど……」
ヨシはちょっといいよどんで、またくすくす笑った。
「それでね、近くにみっちゃんがいなかったんで(またちょっと笑う)、いつものことだけど、〈大発見のよろこび〉をロラとロルに話したんだ。そしたらふたりともすごく興奮してね、それはもう生き物たちも、そういう一番と言っていいくらい大事なことはきっと憶えてるはずだから、〈聞き取り調査〉を開始すべきだっていう。そう言ったと思ったら、すぐお外に飛び出してね、〈根回し〉を始めてくれたんだよ。その結果があの行列だったわけ。ここいらのみんなも、もう〈ひかりのこどもたち〉のおともだちだったから、〈ひとはだぬぐ〉気になったわけだね。精霊たち、神様たちまで並んでたのには、しょうじき、ボクもびっくりしたけどね。」
「なあんだ、そういう行列だったんだ。ヨシ、人の話聞くの大好きだもんね。自分もおしゃべりだけど。」
リリーが「ずぼし」を言うんで、ヨシはまた頭をかいた。
「そう、ボクのだいすきな生き物たちのお話にかんしては、リリーたちにもきょうりょくしてもらったしね。アルバのお話ももうあらかた聞いてる。いのちのしんじつのお話は、どんどん輪になって広がっていくよ。それは記憶と夢のモナドだからね、いつ終わりになるっていうことはないんだ。あ、モナドっていうのは、こういうものだよ。」
ヨシはポケットから、小さな銀色の玉みたいのを取りだして机の上に置いた。ぴかぴか光ってて、そこにはボクもリリーもヨシも映ってる。窓越しの青空もてっぺんに見えたよ。へんてこにゆがんでるけど、でもそこにいるなって感じはする……
「ね、こういう風に、一つだけでも、もうまわりの全体を写してる。それがモナドなんだ。なんか感じない?」
「一人だけでも、森の全体をうつしてるわたし、みたいな。」
リリーがキキキって笑った。それが正解だったみたい。なるほどなって思ったよ。大空を気持ちよく飛んでるときのボクも、きっと大空と大海原と、雲とお日様をたったひとつのちっぽけなボクのこころにうつしてるんだと思う。すこしゆがんで、ずいぶんちっぽけになってるけどね。でもぜんぶうつってる……キミたちと同じだね……
「だからね、お話がすきで、次のお話、また次のお話ってどんどん先に行くと、そのお話を教えてくれる生き物たちも、たった一人で、そしてぜんたいとつながっていく。お話の輪がそのまま生き物の輪になる。お話の行列がそのまま生き物の行列になる。たとえば進化の行列にね。ボクの……きほんてきなせいめいかんみたいなものだよ。だから山荘の前にまた大きな物語の輪と行列ができる……これは自然だったんだけど……」
またヨシはくつくつと愉快そうに笑った。そしてそのおかしさの種明かしをしてくれた。つまり……お日様が死にかけて、また蘇ったことを、縄文の人たちはしっかり憶えてた。憶えてただけじゃなくて、お日様の神様に祈り、たくさんのお祭りを行った。周りの生き物とか、精霊たち、神様方を招いてね。だからそういう「記憶」は、きっとここいらの生き物たちのでんせつやしんわになって残ってるにちがいないって、そうヨシは思ったわけだね。なかなか「ろんりてきなすいそく」だと思うよ。で、聞き取りを始めたら、たしかにお日様をめぐる大きな記憶みたいのになんどもぶつかる。しめしめってヨシは思って、「ぜんしんを耳にした」。で、それからがおかしいんだよ。お日様が青ざめると、だいちが白くなるっていう、そういうお話に出会った。だいちがお日様から遠ざかる時代には、生き物はみんな冬眠するしかなくなった、それも何百万年も、そういうお話がつづく……
「ようやく、なんだかおかしいって気がついてね。そういうお話を注意して集めて、つなぎあわせてみると……それはたしかにお日様の死とよみがえりのお話なんだけど……トバ火山でも縄文のお祭りでもなくて(そういう人間たちのお祭りの記憶は、別にあったんだけどね)、大絶滅とスノーボールをめぐるお話だったんだよ。大きな大きなトラウマとそれからの癒しだね。」
ボクもリリーも顔を見合わせた。「とうだいもとくらし」っていうの? いまヨシが説明した、だいちが白くなるお話とか、ちきゅうがどんどんお日様から遠くなるお話とかいうのは、おとぎばなしの定番?そんなかたちで、もうボクたちは聞いてたからだよ……
「ね、キミたちだって知ってて、それはおとぎばなしだなって思ってるでしょ。でもね、同じようなトラウマをちょっとでも体験すると、それはおとぎばなしじゃなくて、じつわだったんだなって悟る。あるいは……そう、あのルリの妹のルラちゃんみたいに、すごくせんさいでじゅんすいな子は、そういう大昔のことを、まざまざと夢に見たりする。夢に大破局を見て、起きるとお日様がなにごともなかったように照ってらっしゃるんで、ああ、ありがとうございますって、ふかいしんこうしんを抱いたりするんだね。」
そうか……ボクたちのきおくっていうか、夢もそうとうにおくゆきが深いんだなって、なんだかほこらしい気分になったよ。で、ヨシのあれ?っていう感じ、おかしな感じと「反省」の中身も、だいたい分かった気がした……
「そうなんだ。つまりボクも人間だったってことだね。どうしても人間の文明とか文化にかまけるところがあって……それがいいところも悪いところもあるくらいは知ってるけど、でも……〈太陽崇拝のように複雑な儀礼複合〉は、ボクたちだけのものだって思いこんだりするわけだね。だから縄文は縄文だけで閉じてるっていうか、はっきりそうは思わなくても、結果としてそういう風なことを自然に連想したりする。だからね、大事なことは……」
ヨシはちょっと間をあけてボクたちを見た。
「だいじなことは、わたしたちは、みんなせいいっぱい生きてる生き物で、なかまだってことでしょう。」
こんどはリリーが「得意満面」だったよ。つまりそれが正解だったみたい。
ね、お日様のひかりをあびること、そのあたりまえのしあわせ、そのことひとつでも、やっぱり奥がふかいもんだよね。そしてどんどん「じゅんすいな」お話を生んでいく。
そのことがわかってくれたら、今月のボクのレポートは成功だって言っていいと思うよ。
けっきょく、ぎょうれつから、モナドになって、きらきらぜんたいをうつしながら、輪になっていったのが今月のお話だったね。
来月はいよいよ哲学のお話だよ。哲学をながいあいだやってたヨシが、どうしてお話の輪の中に入っていく決心をしたのか、そういうお話。おそらく最終回だよ。楽しみにしててね。
|
|
|