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ロラとロルの神様さがし ――前篇:聞き取り調査――
朗読・michiko
3:鳴き声
ロラとロルは、まずホシの甥のホシ君をたずねることにしました。『クラとホシとマル』に登場する、星座になったホシの甥で、近くの山で生活しています。この子のことはわたしは聞いてはいますが、まだ会ったことはありません。キビオのお友だちなので、道案内はキビオがかってでました。「ひとっとび」の距離だとはいうのですが、リスのリリーだと二三日はかかりそうです。それでリリーは山荘を出て、森の谷川が見えるあたりでひとまずお別れしました。でもそこまでの道すがら、リリーは「神様さがしをはじめた子」を知っているといって、ロラたちに紹介しました。それはその谷川を下ったところに暮らしている、サワという名前のカワセミの子でした。この子はわたしも知っています(ちょっと会ったことがある程度ですが)。一枚デッサンもありました。それを紹介しておきましょう。好きな谷川で、ちょっとぼんやりしているところです。
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カワセミのサワ |
ロラとロルは、まずホシの甥のホシ君をたずねることにしました。『クラとホシとマル』に登場する、星座になったホシの甥で、近くの山で生活しています。この子のことはわたしは聞いてはいますが、まだ会ったことはありません。キビオのお友だちなので、道案内はキビオがかってでました。「ひとっとび」の距離だとはいうのですが、リスのリリーだと二三日はかかりそうです。それでリリーは山荘を出て、森の谷川が見えるあたりでひとまずお別れしました。でもそこまでの道すがら、リリーは「神様さがしをはじめた子」を知っているといって、ロラたちに紹介しました。それはその谷川を下ったところに暮らしている、サワという名前のカワセミの子でした。この子はわたしも知っています(ちょっと会ったことがある程度ですが)。一枚デッサンもありました。それを紹介しておきましょう。好きな谷川で、ちょっとぼんやりしているところです。
このサワは、かわいそうなことに最近妹さんを亡くしました。でも妹さんは死んだんじゃない、神様の使いになったんだとかたく信じて、そうお友だちにも言っているのだそうです。とても仲がよかった兄妹なので、みんな「無理にそう信じてる」のかなと感じましたが、でもそうだね、きっとそうだよとあいづちをうったりはしてあげているようでした。それで……サワはそれがきっかけで、谷川の神様のことを調べはじめて、自分でもこっそりさがしはじめているらしいという噂でした。それをリリーはロラたちに紹介したのです。
「なあんだ、やっぱり神様をさがすって、そんなにめずらしくないんだ。」
ロルはぱっと顔を明るくして(もともと明るく輝くひかりの中にいる子ですが)うれしそうに言います。「そうね、とうだいもとくらしね。」とロラも喜びます。リリーは、知り合いの中では、神様をじっさいにさがそうとしているのはこの子一人だから、そんなにしばしばあることではないと感じていました。でもロルたちをがっかりさせたくないので、そのことはだまっておくことにしました。
「まず星座になった子のことを調べて、その子がどのくらい神様に近づいているのか、これから神様になる予定があるのかを〈聞き取り調査〉するでしょ。それからこんどはそのカワセミのサワ君の妹さんが、お使いしている、谷川の神様のことを調べる。こういうの、フィールドっていうのよ。よくだいはっけんとかあるみたい。」
ロラはうれしそうに言います。ロルは「あ、おねえちゃん、またがくもんやってるね」とにこにこしました。
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秋の山並み、紅葉や黄葉の森 |
ロラとロルは、いつものようにまるいひかりの玉に入り、キビオについてお空を飛んでいました。秋の山並みはとてもきれいです。もうあちこち紅葉や黄葉がはじまっていました。しばらく飛ぶと、キビオがこちらをふりむいて、手前の山の山頂あたりをくいっとクチバシで指します。そこいらには、深緑の、背丈の低い木がびっしり生えていました。
「ハイマツだよ。ハイマツの実がね、ホシの大好物なの。ボクは殻が固すぎて無理だけど、とってもおいしいんだって。きっとあそこらへんにいるよ。」
ちょうどその時です。「グェッ、グェッ」という奇妙なしゃがれ声が、谷間にこだましました。
「あ、いたいた。」
キビオはうれしそうにこう言って、すうっとその音のするあたり、ハイマツのしげみに降りていきます。
「あの鳴き声……カエルだよね。」
ロルは首をかしげました。
「うん……ガマガエルとかだと思う。それも、おじいさんっぽいね。」
ロラも不思議に思いました。
「でも、そのおじいさんガエルが、山のよげんしゃかなにかで、ホシ君はそのお弟子さんかもしれないわよ。よげんしゃは使徒というお弟子さんをもって、ふくいんを伝える、だいたいそういうものなんだって。」
ロラがこう言うと、ロルはちょっとむずかしそうな顔をします。
「あ、それはひとつのかのうせいだね。けんしょうがひつようだけど。」
「ロル、がくもんてきだね。」
ロラはくすわらいます。二人は「かのうせいはむげん」だし、カエルのおじいさんと若者の小鳥の組み合わせにも、なんとなくなっとくして、キビオのあとについていったそうです。すると……ガマガエル抜きのホシ君がいました。そしてもう一声、「グェッ、グェッ」とおじいさんガマガエルそっくりに鳴いたので、二人は目を丸くしました。
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ハイマツの梢にとまって お日さまを見ているホシ君 |
ホシ君は大好物のハイマツの実がたくさんなっている、そのハイマツの梢にとまっていました。そしてお日様をじっと見ています。ここでまたぴんとロルにひらめくものがありました。姉さんのそでをひいてささやきます。
「ね、ああやってお日様にいのってるでしょ。やっぱりお日様が神様なんだよ。それがこのほしの生き物のじょうしきだよ。」
「そうね、それもかのうせいの一つね。しっかりけんしょうしましょ。」
こんどはロラがこう言います。言ってみて、ほんとうにそうかもしれないと思ったそうです。
キビオはもう梢のそばまで来ていました。そしてホシに声をかけようとしたちょうどその時、ホシはまた一声、「グェッ」とどこか悲しげに鳴いて、さっと飛び立ちました。そのまま、向こうの大きな山をめざして飛んでいきます。キビオはあとを追おうとしましたが、でもすぐあきらめて、ホシのとまっていた梢にとまりました。ホシガラスが全速で飛ぶと、あの最速のハヤブサほどではありませんが、でもヤマバトやアオサギよりはずっと速いのです。キビオも「つばさじまん」ではありましたが、でもとても追いつけないことはわかっているので、あきらめたのでした。
「ざんねんだね、お日様になにをお祈りしてたのか、聞き取りできると思ったのに……ぼくたちだけで、しょうかいじょうなしじゃ、だめだよね。」
ロルは、姉さんといっしょに梢の上をふわふわ漂いながら、こう聞きました。これはつまり……ひかりの子供たちは、ひかりですから、光速度で動くことができる、これはまあじょうしきです。ただぱっと相手の前にあらわれると……それはそれで問題でした。ぴかっとひかって……どきっとすると……たいていは神様よりはホラーとかをれんそうするからで、その問題を姉さんのロラもしてきします。つまり、「しょうかいじょう」もなしに、「神学上の重要な疑問」をいきなりぶつけると、それはだれでもめんくらうからです。
「それに、さいごの鳴き方、なんだか悲しそうだったでしょ。いまはきゃっかんてきながくもんの気分にはなれないかもしれないし。」
「でもだから大切な祈りだったのかもしれないよ。うれしいときだけじゃなくて、悲しい時にも神様にお祈りしたくなるでしょ。」
ロルはちょっと口をとがらせました。これは二人の「じったいけんにもとづいたかんがい」(少し学問的な言葉づかいになって恐縮ですが)でした。つまり……この地球にくるまで、そして来てからもいろいろ楽しいことがあって、そして悲しいこともそれにまざっていたからです。そういう悲しい体験をすると(たとえば仲良くなったオーロラのお兄さんと別れた時とかですが)、とくに神様にお祈りをしたくなったのです。ですから、さっきのホシのとても悲しげな鳴き声も、ひょっとしてそうかなとロルは感じたようでした。
「そうだね……お食事の時間なのに、ハイマツの実は食べてないしね。」
あたりの実を「ちょうさ」していたキビオも賛成します。
「でもだいじょうぶだよ。あのお山はホシのホームグラウンドでね、ボクもよくかくれんぼとかして、いっしょに遊んだ。だいたいどこいらにいるかもわかるから、行ってみようか?」
二人ともすぐ賛成しました。そしてやっぱり大事な質問をする時に「しょうかいじょう」を持ってきてよかったと思ったそうです。つまりキビオが紹介してくれるという、そのことですが……
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ジグザグの尾根 |
また気持ちのいい山並みを飛び越えていきます。尾根がジグザグに、遊び描きのような面白い交差をくりかえし、そのあいだに渓流が流れていました。風も穏やかで、秋晴れの空を飛んでいるさいちゅうにも、気持ちがよくてうつらうつら居眠りしてしまいそうでした。
「この島の山って、ボク好きだなあ……南極の山とかもすごかったけど……こわいところもあったでしょ。こういう山だと、すぐお友だちになれそうで……それが……ボク……大好き……」
ロルはとうとう居眠りをはじめそうになりました。光の玉がちょっと揺れ始めます。速度も落ちて、前を飛ぶキビオの姿がどんどん遠くなりはじめますので、姉さんのロラはあわててロルのからだをちょっとゆすりました。
「な、なに……ベルクが海に落ちたの?」
「ベルクはもう砂漠の霧よ。なによ、南極とアフリカの夢とか見てる。ここはひのもと、日本です!」
「あ、そうだったね……日本で神様さがしをする、ぴったりのフィールドテーマだね。」
ロルはしゃきっとしました。それでひかりの玉のゆれもおさまり、またすうっとキビオのすぐ近くまで行くことができたのです。
キビオはさっきからしきりになにか探しています。大きな山は、赤みがかった岩壁を見せて目の前にそびえたっていました。山頂は岩山で、そのすぐ下にまたハイマツの緑の帯が、まるでマフラーのようにつらなっています。でもキビオはそこではなく、中腹の森と森の空き地のあたりを見ていました。そこには秋ですから、ススキの草原も広がっています。
「あ、いたよ。やっぱりだ。ボクたち、あそこでよくかくれんぼしたの。他のお友だちもたくさん来たんだよ。オオルリのルリとか……アカショウビンのアカ、子ジカのテオ……」
下を見ますと、ススキの原が切れるあたりに岩場があって、そこに黒い帽子が見えました。ホシ君のベレー帽です。じっとまたお日様を見上げていました。お日様はいまは谷間をはさんだ向こうの山並みの上にあります。谷間には人間の村もありました。お百姓さんたちが、山あいの田畑を苦労して耕してくらしている、そういうあたりです。
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山とお日さまを見ているホシ君 |
「どうしようか……またお祈りしてるみたいから、しばらく待ってみる?」
キビオがロラたちを振り向いて聞きます。たしかにホシ君は、じっとお日様と山並みを見ていて、どことなくまだ悲しげでした。
「そうね、じゃましないほうがいい。」
ロラも賛成します。それでキビオとロラたちは、ホシがいるあたりから少しはなれて、ススキの原の中に降り立ちました。ススキのあいだから、まだホシ君のベレー帽がしっかり見えるのでだいじょうぶです。
でも降り立ったと同じくらいに、もうお祈りは終わったようです。ホシ君は、くるっとこちらを見て、「グェッ」とこんどはとても朗らかな声で鳴きました。
「またかくれんぼ? いいよ、ボクが鬼。でもさ、おなかぺこぺこなんだ。まず食事にしない?」
なあんだ、降りてくるところが見えてたんだとキビオたちは思いました。それでかくれんぼも面白いけど、たしかにお腹もへってきたので、すぐ出て行って「それがいいね」とあいさつしたそうです。ホシはロラたちと会うのは始めてでしたが、ひかりの子供たちのことはもうお母さんから聞いていましたし、「おともだちのおともだちはおともだち」ですから、すぐ仲良くなりました。
「じゃあ、近くにしようよ。ハイマツのあなばがあるんだ。」
ホシはすぐ食事の場所を提案します。「でも、ボク、ハイマツは……」とキビオが言いかけると、「食べ方、教えてあげるよ、簡単だよ。キミ、クチバシけっこう丈夫そうだし」と言います。それでキビオも前から一度試したかった「食材」ではありますし、大いに乗り気になったというわけでした。
今日はここまでです。神様のお話そのものがまったく出てこないので、「ええっ、これなに」と思った子もいると思いますが、お話はじゅんじゅんに、じゅんじゅんに出てくるしかないのです。これはこの宇宙がじゅんじゅんに、138億年かけて、わたしたちのいまの宇宙になってきたのに少し似ています。お話も宇宙も、「時間をかけて」育っていくものだからです。
ともかく次回は、たっぷり神様のお話が「生まれたてのほやほや」のすがたを見せてくれると思います。期待していて下さい。あ、その前にハイマツの実の食べ方が紹介されます。これも楽しみにしていていいです。来世に小鳥さんに生まれ変わる予定のある子には、特におすすめです。
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