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〈絵本の森〉物語
朗読・michiko
2:迷子の神様
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大空を翔ぶアルバ。下には南の島のヒナたち。 |
やあ、また会ったね。ボクのこと、おぼえてくれてるでしょ。このHPのナビゲータやってるアホウドリのアルバだよ。といって、お仕事はまだ始まってないんだけどね。きょう始まる予定。それとも来月かな? まあ、なるようになるからのんびりかまえててよ。
ことばだけだと、ほんとうにボクかどうか気になる人もいるかと思うから(SNSの難しさとかさ、ヨシからよく聞くんだ)、お空を飛んでる時のボクの姿、見せてあげるね(挿絵4)。
これはね、日本の南の島で、ボクの生まれ故郷。いちど全滅しちゃったんだけど、また保護活動が始まってて、ちょくちょく行くんだ。迷子になってる子とかいないか見てあげてる。保護活動の人たちも、「あ、アルバだ、がんばってるね」とか言ってくれるよ。まだ精霊見るのに慣れてない子もいるから、ちょっと白めにして普通の若鳥が隣の島から飛んできた、みたいな顔をしてるけどね。「なりすまし」じゃないからね。地球にも人間にもやさしいせいれい、みたいな感じ。
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「めおと松」でドングリを食べているリリー。 |
で、いまは雪山をこえて、ヨシの山荘がある森に入っていったとこ。リリーはやくそくの「めおと松」のあたりで待っててくれた。お食事中。こんな感じ。あ、いまは雪がつもってるけど、これは春の絵だよ。ヨシの手持ちが少ないみたいで、がまんしてあげようね(挿絵5)。
リリーはボクを見ると、ぽりぽりっていきおいをつけてドングリを食べおわり、枯葉でさっと口をぬぐってから、ぴょんと林道に飛び降りた。この木は林道の入り口に立ってて、まあ「森のランドマーク」みたいなものなんだ。ボクはすぐ横に降り立った。
「あーあ、冬はもういや。食べ残しのドングリって、すっごく味悪いの。春が待ち遠しいな。春、恋の季節、いけめんリスを見つけて、せいしゅん、まんかい、とか。」
ボクがにやっと笑ったら、リリーは肩をすくめた。
「こどもにはまだ早い、でしょ。わかってる。あと一、二年のうちにはってことよ。」
リリーはそう言って歩き始めた。ボクもその横をよたよた。
「きょうはスマホはどうしたの?」
ボクは気になったことを聞いてみた。リリーは、世話になった獣医のおじいさんとSNS?メール?そういうのしてたことがあって、いつもスマホを首に提げてるんだ(おじいさん、亡くなったらしいけどね)。
「うん、キビオがゲームに貸してっていうから貸してきた。」
キビオはキビタキの子だよ。ボクたちの仲間。〈森をつくりましょう〉とかいうゲームがはやってて、それにはまってるみたい。小鳥ばっかりの森にしたいけど、うまくいかないみたい。あたりまえかな。
「あ、あしあとあるんだ。きょうは『わかどり、なりすましモード』なの?」
リリーは、雪の上に軽く残ってるボクの足跡を見てた。リリーのちっこい足跡がかわいく並んでる。
「ちがうよ。ほうもんモードかな。ヨシはまだなまにんげんでしょ。そっちに顔とこころを向けると、『けいそういんがげんしょうし、しつりょういんが増すみたいだ』って、ヨシが言ってた。なんのことかわからないけどね。」
「きっと、ほんしつ、および、じつざい、に関係したことね。」
リリーはキキキって笑った。あ、リリーはね、「なまリス」だよ。つまりキミたちの森や林や公園にいる普通のリス……といっても、じんせいけいけんはけっこう豊かで、「スマホのリリー」って言えば、ちょっとこのあたりじゃ有名なんだ。で、その「スマホ」のことが気になったらさ、ヨシの『火星のおてんきあめ』を読んでよ。すっごく面白いお話だよ。せんでんするようで悪いけど。あ、ボクはざんねんながら出てこない。それは言っておかないとね。
「で、質問のことは? リスト持ってきた?」
「うん、持ってきたよ。これ。」
ボクは右足に結んでる「こより」を見せた。
「なにこれ、新しいでんごんゲーム?」
リリーはちっこいお手々で器用にこよりをほどきながら聞く。ボクはハットっていう子に手伝ってもらったってうちあけた。
「ハットっていうのはね、伝書バトやってた子なんだ。伝言だけじゃなくて、字とかもその時おぼえたみたい。」
「アルバ、せけんひろいもんね。」
リリーはなっとく顔でこよりを広げて、ボクが「代書」してもらった質問事項をたしかめた。
「一、どうしてヨシはとつぜん絵本をはじめたのか、二、じゅんすいなお話の意味、三、絵本の森の意味、以上、か。いいね、わたしもだいたい同じだよ。こんなもんじゃない?」
「なにかつけくわえることは?」
「そうだな……山荘の前に長い行列ができたのはなぜか、くらいかな。」
「あ、そうだね、あれボクも聞きたかった。」
ながいぎょうれつっていうのはね、ヨシの山荘の前に、ずらっといろんな生き物が列になって並んだことがあって、びっくりしたことがあるんだ。リリーとかキビオとか子グマのツクとかも、みんなびっくりしてた。つまり、おともだちはいなくて、新しい子ばっかり。で、透き通った子もいたし、なんかずうっと昔の服を着たサムライみたいな人(精霊か亡霊だろうね)、あととってもりっぱな顔をしたお坊さん。それもすごく明るいだいだい色の服を着て、おそらく外国から来た人じゃないかな。それだけじゃなくて、ぼろぼろの服を着た髪がもじゃもじゃの、からだのすごく大きな人までいた。おじいさんのホームレスみたいな人だけど、どうやら山神様みたいだった……
で、この行列はいちどきにぱっとできて、それからだんだん減っていって、さいごには山神様っぽいおじいさんだけになった。このおじいさんは、どうやら……にんちしょう?そんなお年で、自分のほこらから「はいかい」して出てきたらしいんだ。帰り道がわからなくなっちゃったみたい。で、しばらくヨシが山荘にとめてあげたんだけど、ものすごいいびきで、家がゆれるくらいだった。悪い夢をみてもがくと、あたりの木がたおれそうなくらいに揺れるし、きっと若いころはこのあたりで信仰されてた「あらぶる神様」だったのかなとか思ってしまうよ。ヨシが里の図書館に通って古文書や「きょうどし」っていうの?このあたりの歴史とか調べて、うらやまのほこらがこのおじいさんの「げんじゅうしょ」らしいことをたしかめた。それで、ヨシとリリーとボクが案内して連れて帰ってあげたの。ほこらには小さな白髪の木の人形があってね、それがどうやら奥さんらしい。これを見てとつぜんおじいさん、ぽろぽろ泣き出すんで、なんだかボクたちも胸がいっぱいになっちゃったよ。ともかくほこらの中にすうっと消えていったんで、持ってきたクリとかみかんとかをちゃんとおそなえして、いっけんらくちゃくってわけ。
「あの人はね、奥山のヒコ神様だよ。人形のおばあさんはヒメ神様。ヒメ神様のほうは、きっともう『かむあがられた』んだろうね。かたしろだけが残ってる……」
帰り道、ヨシはふっとためいきをついて奥山を見上げた。まだ細い噴煙があがってる、とっても古い山だよ。
「山も森も川も、みんな神様だった。そしてボクたちはそのおかげで生きてた生き物だった。でももうそのことをおぼえてる人間も生き物もずいぶん少なくなった。森も川もいまじゃ『しげん』だよ。衛星をつかって使えるものだけさぐったりしてる。さびしい世のなかだね。」
「でもさびしくないよ。わたしだっているし、アルバだっているでしょ。」
リリーがこう言うと、ヨシは「そうだね、だからじゅんすいなお話がボクも書ける。まだまだちきゅうは楽しいことだらけだよ」って言いながら、リリーの頭をなでてた……
「あれっ、またあの人……あの神様だよ。」
林道が終わるころ、リリーがこう言ってボクの羽をひいた。見るとたしかにあの神様だ。ヨシの山荘の前には、小さな納屋みたいなのがあるんだけど、そこの陰でこっくりやってる。ぼさぼさ頭とぼろきれみたいな昔風の服。足ははだしでまっかっか(寒いからしかたないね)。でもどことなくやっぱり霊気っていうか、神気っていうか、そういう青白い気配がただよってて、やっぱり神様なんだなって思う。ボクたちが近づくのに気がついたみたいで、ぶるぶるって首をふって、あたりをびっくりしたみたいな目で見回してる。ボクたちと目があうと、でもにっこり笑ってうなずいてくれた。おぼえててくれたみたいだね。
神様は手まねきして、ふところからなにかの包みを取りだした。古新聞に包んである。受けとると、山荘の玄関をさして、なんどもうなずくんで、ああ、ヨシにこのあいだのお礼のお土産を持ってきたんだなってわかった。わかりましたってうなずいて、包みを受けとると、安心したみたいにぐっとのびをして……からだがぐうっとそのままどんどん大きくなるんでびっくりしちゃった。大きくなって、でも透明になって……気配がうすれて、とうとうお空にのぼっていっちゃった。
「かむあがり? 亡くなられたの? ちがうよね。」
リリーが心配したみたいにつぶやく。ぼくもちょっとどきっとしたけど、ちがうみたい。まだずうっとお空の上のほうに、もう大きな雲みたいになったお体がかすかに見えて、そこからやさしい風の気配が漂い、すうっと消えていったんだ。
「そうか……風の神様だったんだね。」
リリーもなっとくしたみたいにうなずいた。で、ふたりでドアをなんどもノックして、ヨシがなんだかねぼけた顔で「やあ」と言ったときには、いつもののんきな気分にもどってたってわけ。
で、お茶をして、いよいよ質問コーナーになったんだけど……これは来月かな。というのもね、質問があって、回答があって、それでボクたちの出番はおしまいでしょ。それだとなんだかナビゲータのそんざいかんがきはくっていうか、きちんとやっぱりボクたちが森を歩いてるそのすがたとか紹介したほうがいいって、これはリリーの意見。お茶をしながらひそひそ話をしたんだけどね。そしたら紅茶をいれてたヨシがそのうしろすがたのままで、「ああ、それいいね、それで一回分」ってほめてくれた。で、今回はこういうお話になったわけ。
あ、あの包みだけど、中はね、古い赤茶色の土器の破片だった。あとお人形みたいなもの。これも土を焼いてつくってて、破片になってた。顔半分くらい。ヨシはすごく喜んでたよ。なんか縄文時代とかに関係あるんだって。ヨシは縄文時代が大好きで、なんかそういう時代のお話とかも考えてるみたいだから、神様がそれを感じてプレゼントしたんだろうね。でもすぐ消えちゃった。青白く輝きはじめたと思ったら、すうっと消えたんだ。でも消える時に、その面白い顔の細い目のおばさんみたいな人形の口元がにっこり笑ったんで、これもヨシはすごくうれしかったみたい。器物霊だったみたいだね。ながいあいだ大事に使われてた道具とかで起きる現象だよ。
じゃ、きょうはこのくらいで。つぎがいよいよほんしつてきな、りねんてきな、げんりてきなお話になると思う。楽しみにしててね。
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