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機器分析の時代を牽引した電通大
NMR分光
20世紀後半から今日まで約60年間の自然科学の特徴の一つが測定器、機器分析の進歩でした。機器分析は物性研究や化学の研究室が60年代から70年代にかけて従来ビーカーや試験管などガラス器具から赤外線装置や質量分光などの分析機器にとって代わった劇的な変化の特徴です。 最初に取り上げる、磁場の中で原子核が電波と共鳴するという第二次大戦直後に発見されたNMRはその中でも最も遅くに原理が発見され、最も早く自動化とコンピュウター化を取り入れ、また分子や物質の構造解析に最も役立つ道具として瞬く間に普及したいわば機器分析の優等生です。
NMRは日本では、ここ電通大で最初に高分解能NMR装置を電通大の若手の教官たちと卒研生が協力して作り上げたばかりか、その後もNMRの化学や物性の研究に電通大出身の多くの研究者が活躍したり、医学への応用としてのMRIの開発に携わる電通大の卒業生を多く育てたことなど、電通大の誇る業績の一つです。ことに最初の高分解能NMRの製作を中心にした物語が第一話「我が国最初のNMR」です。
レーザー分光
レーザーの研究も化学や物理の分光学という分子原子の構造や運動の解明に使ったのは、日本では電通大が最初です。ルビーを磨いてメッキし電通大のD棟でドカーンというおおきな音を響かせた、最初のベンゼンやトルエンのラマン効果を観測し、分子の性質や構造を明らかにする分光学に使えるという成果を最初に上げたのは電通大の一般教育化学の教官と昭和39年卒の卒業研究の学生でした。その後も、大学の西地区に数10年にわたって運営されたレーザー研究所があります。第二話「日本の初期のレーザー分光も電通大」をご覧ください。
質量分光の「インビーム」
また、質量分光は1mg以下の微量な資料の分析の有力な手段です。X線回折装置、NMRとともに複雑な有機分子の構造解析に必要な最終手段といわれていました。複雑な有機分子を気化してばらばらにすることが当時の最大の課題でした。これを見事にやりとげたのが電通大の材料学科で行われた揮発分解しにくい試料を荷電粒子線で照射して気化させ、質量分光の性能を上げた「インビーム」法を開発したのです。この方法は多くの人に広く応用され電通大が誇る機器分析研究の一つです。ノーベル賞を受賞した島津製作所の田中耕一の仕事の直前の先行研究と見る人もいます。
電子顕微鏡
さらに電通大の機械工学や材料工学や電子工学での表面物性の各種の研究に今でも重宝されている電子顕微鏡も機器分析の重要な分野で、学内の超伝導回路の研究でも大きな役割を果たしましたし、電通大出身の初の文化勲章受章者の昭和38年卒飯島澄男の主な業績も電子顕微鏡に関するものです。
このように電通大は20世紀後半の科学史上の最大の特徴「機器分析の成立」の大きな牽引力になっていたのです。
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