鳥居龍蔵とその世界 Page04



鳥居龍蔵撮影の写真資料
「東京大学総合研究資料館標本資料報告 第18号、1990」より転載。


香原志勢・鈴木昭夫・及川昭文・赤澤 威


本館(東京大学総合研究資料館)、人類・先史部門には多数の写真乾板資料が保管されている。その実数は未だ確認されていないが、数万枚にのぼるものである。資料の内容は基本的には二種類に大別される。一つは、東京帝国大学理学部人類学教室および人類学会が主宰した遺跡調査の際に撮影された日本先史遺跡に関するものであり、もう一つは、主として鳥居龍蔵が東京帝国大学在職中に国内外の広範な地域で実施した野外調査の際に撮影した一連の写真資料である。

私どもは、昭和63年度・平成元年度文部省科学研究費補助金総合研究(A)(課題名「鳥居龍蔵博士撮影の日本周辺諸民族写真・乾板の再生・保存・照合」研究代表者:香原志勢 課題番号63300013)の研究補助のもとに、上記写真資料のうち後者、すなわち鳥居龍蔵によって撮影された写真乾板について、その再生および保全作業を実施した。本カタログはその作業の結果の一部を収録したものである。

以下、本科学研究費プロジェクトの研究組織、研究内容、作業内容、および今回刊行するカタログの内容について説明する。

  
氏名    所属(平成元年度現在)       役割分担
香原志勢    立教大学       研究代表者
鈴木昭夫     東京大学       写真乾板資料のプリントと複製
石川栄吉     中京大学       ミクロネシア関係写真の照合・分析
伊藤亜人     東京大学       朝鮮関係写真の照合・分析
笠原政治     横浜国立大学       台湾、沖縄関係写真の照合・分析
末成道男     聖心女子大学       台湾、朝鮮関係写真の照合・分析
曽 士才     法政大学       西南中国関係写真の照合・分析
谷野典之     立教大学       満州関係写真の照合・分析
土田 滋     東京大学       台湾関係写真の照合・分析
中川 裕     千葉大学       千島関係写真の照合・分析
姫野 翠     昭和音楽大学       台湾関係写真の照合・分析
及川昭文     国立教育研究所       データベース構築
赤澤 威     東京大学       資料整理


■写真乾板資料

当該研究の対象となった写真乾板資料の総数は2545枚である。その内訳は下記の通りである。地域分類は、写真乾板を収納する箱に記入されていた名称にもとづいている。

地域分類(種別コード)    写真乾板数       ID番号
アイヌ(A)         82    1001~1082
エスキモー(E)         24    2001~2024
満州(M)         75    3001~3075
日本(J)         174    4001~4174
朝鮮(K)         164    5001~5164
琉球(R)         179    6001~6179
台湾(T)         834    7001~7834
南洋(N)         649    8001~8649
マレー(I)         37    9001~9037
苗(B)         173    10001~10173
猥楳(L)         30    11001~11030
各地人種(Z)         61    12001~12061
地域不明(F)         53    13001~13053
その他(S)         10    14001~14010
       計        2545      


以上のうちで南洋およびマレーに分類されている資料は、東京帝国大学人類学科初代教授長谷部言人博士が撮影したものである。

■研究の目的と方法

1.保存用オリジナル写真フィルムの作成
写真乾板(キャビネ版サイズ)を六ッ切サイズ(8×10インチ)印画紙にプリントし、そのプリント画像を6×7cm白黒フィルムで複写した。このフィルムをオリジナル写真フィルムとして保存することとした。なお、このフィルムは2セット作成した。

2.データシートの作成
それぞれの写真が有する各種の情報、属性を抽出し、写真と併せて恒久的に保存、利用できるようにするため、各地域の専門研究者が各写真を解読するとともに、野外調査を含めた情報収集を行い、下記項目に関するデータシートを作成した。

■写真データ記入項目と内容

  • ID番号 : 各々の写真に付与する固有番号で、1001から始まる6桁以内の番号。
  • 種別コード: 写真をその地域、内容などで区別する場合の分類コードとして使用する4桁以内の英数字。例えば、満州→M、台湾→Tなど。
  • アルバム記号: 当該写真が貼られているアルバム(鳥居龍蔵作成と考えられる)に付与された固有番号。
  • 写真状態: 当該写真の状態の区分。
    1.良 → 使用可能で保存状態のよいもの
    2.可 → 使用可能なもの
    3.不可→ 使用に耐えないもの
  • 入者イニシャル: 属性データを記入した人のイニシャル。同じイニシャルになる人が複数いる場合は、3文字あるいは4文字にして同じイニシャルにならないように工夫する。
  • 地域: 写真が撮影された地域の名称。名称が漢字で表記される場合で、難読のものは漢字のあとに( )で囲んで振りかなを記入する。例えば、東京(とうきょう)
  • 場所: 写真が撮影された場所が屋内か屋外かの区別。
  • 日時: 写真が撮影された日時が確認できる場合は、その日時を記入する。年だけ、月だけでも可。
  • 季節: 写真が撮影された季節。
  • 時間帯: 写真が撮影された時間帯。
  • 人数: 写真に写っている人物の人数。集団で写っていて、人数の確認が困難な場合は『999』と記入する。
  • 男: 写真に写っている男の区別。
  • 女: 写真に写っている女の区別。
  • 性不明: 写真に写っている性別不明な人物の区別。
  • 服装: 写真に写っている人物の服装に『特記すべき事項』がある場合は、それを記入する。(注1)
  • 装身具: 写真に写っている人物の装身具に『特記すべき事項』がある場合は、それを記入する。(注1)
  • その他: 写真に写っている人物に関して服装、装身具以外に『特記すべき事項』がある場合は、それを記入する。(注1)
  • 動物: 写真に写っている人物や動物に『特記すべき事項』がある場合は、それを記入する。(注1)以下、『植物、物、建造物、自然物、行事』などの項目についても同じ。
  • 文献: 当該写真を掲載している文献など、関連のある文献について記入する。文献の表記については統一する。
  • キーワード: 当該写真に関して他の項目に記入できないような『特記すべき事項』がある場合は、それを『簡潔に表現する言葉』をキーワードとして記入する。
  • コメント: 記入者の当該写真に関するコメントを記入する。
  • 鳥居メモ: 当該写真に関して、鳥居龍蔵のメモ、コメントなどがある場合はそれを『そのまま』記入する。

    注)1. これらの項目は、できるだけ文章で表記するのではなく、簡潔な単語や熟語で表現するようにすること。
    注)2. 複数の写真が『ひとつのまとまり』を示す場合は、別紙『関連写真ID番号表』にそれらの写真のID番号を記入する。例えば、同じ人物や建造物が写っている写真、ある一族の写真などが考えられる。
  • 『関連項目内容: 関連する内容について記入する。例えば、「同一人物」、「○○家の家族」など
  • 『写真ID番号』: 関連する写真のID番号を記入する。ID番号とID番号の間は『,』で区切る。
■収録写真資料について

今回刊行するカタログに収録した写真資料は、鳥居龍蔵が撮影したアイヌ、台湾、沖縄、満州、千島、西南中国のものである。当館に保管されている鳥居龍蔵撮影の上記地域、民族の写真資料は1373点あるが、今回収録したのはそのうちの約800点にとどまっている。収録できなかった写真資料は、もともと長い露光時間を要する写真機を使用したために画像にいわゆる"プレ"が生じていたり、長い間死蔵されていた間に写真乾板が著しく劣化したなどの事情により再生されたプリントの状態が悪く、その内容が判読できなかったもの、あるいは再生状態は悪くはないが今日までに情報、属性がほとんど入手できなかったものである。 各写真に付されている説明は、先述したデータシートに記載された情報、属性の要旨である。

説明文の長短は必ずしもデータシートに記載されたデータの多少を意味するものではなく、単に写真説明に対する研究者の好みが反映されているにすぎない。 なお、この資料カタログの解説文と写真説明の中には、地名、民族名、その他について、満州、蕃などの表記が少なからず出てくる。本来ならば使用すべきではない語であるが、本カタログの趣旨が鳥居の学問とその背景となった時代の復元にあることをかんがみて、あえて現代的な表記には改めなかった。

今回公表する写真資料については、ID番号をもってオリジナル写真ネガフィルムを検索でき、またデータシートに記載されているより詳細な情報、属性も併せて利用できる。

私どもは、今回収録できなかった残部の写真資料についても、早急に情報、属性をまとめ、本カタログの続刊をもって公表する予定である。また、オリジナル写真資料とそれに伴う情報、属性データを一体化した画像データベースを構築し、その保存、管理、検索を効率化する予定である。 今日ではほとんど入手不可能となった貴重な情報、データを多数包含する鳥居龍蔵映像記録は、新しい研究素材として各方面から期待されうるものであり、利用の要請に的確、迅速に対応するためである。



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