Maya Temples/深沢レポート



シリコン・バレーからベリーズへ

 日本と中南米諸国との間にはまだ直行便は開かれていない。ベリーズに入るにも、ロスアンジェルスかダラス、マイアミなどを経由して更に途中で乗り継がなくてはならない場合もある。 フライトの都合で、一般には、ダラスかマイアミ経由が好まれているようであるが、私の場合は、ロス - サンサルバドール経由とし、そこでの乗り継ぎの時間が約10時間ほどあったためにまずサンフランシスコに入り、シリコンバレーの出先に寄って少し暇をつぶすことにした。

 3月4日早朝、サンフランに着き、通関をでると早速、相棒のベンが笑顔で出迎えてくれた。ベンは、スリランカの出身で一時期はロンドンの学校に通い、それからわずか10ドルをもってアメリカにわたってきたという、今では自称シリコンバレーのハスラー。シリコングラフィックスやサン・マイクロ、アップルなど世界的なコンピュータ会社に囲まれたロス・アルトスという閑静な住宅街にソフトウェア開発の拠点をかまえ、私たちとはSIGGRAPH'81(コンピュータ・グラプィックスの学会)以来の盟友である。

 仲間内で "Texnai House" と呼んでいる私たちの拠点もロス・アルトスにある。1992年の春以来借りている敷地が約600平米ほどもあるカリフォルニア風の家で、現在はもっぱらベンがゲストハウス兼開発センターとして利用している。その"Texnai House"に着くと間もなくしてもうひとりの盟友ジュリアンがやってくる。彼は、バークレー 出身のフリーのソフトウェア・エンジニアであるが、この2年間はアップル社のスタッフとして3次元グラプィックスのマネージング・プログラムの開発を担当してきた。ベンとは良きパートナーでもあり、最近の電話では、マッキントッシュの仕事も一段落つき、フリーとしてまた別のプロジェクトにとりかかったばかりだという。100キロ以上はあると思われる巨漢の彼は、また、そのでっぷりとした体格にも似合わずセスナの愛好家でもあり、毎年夏、アメリカの主要都市を巡回する SIGGRAPH には、よく愛機でやってくる。私も一度サンフランシスコのベイ・エリアを一緒に飛んだことがあるが、時々空でオイル漏れする中古機にもかかわらず、なかなか見事な操縦であった。

 マヤのCD-ROMプロジェクトについては、ベンもジュリアンも当初から極めて好意的に受け止めていてくれた。特にジュリアンは、その内、マヤの遺跡を空からなめまわしてみたいというし、私も賛成である。また、ベンは、現在、デジタル・カメラに夢中であり、今度は、是非、自分も一緒に取材に同行し、その腕前を試したいものだと意気込んでいる。CD-ROMにするには、いずれデジタルにするのだから始めからデジタルで撮ればよいというのが彼の持論である。確かにその通りではあるのだが、実際は、まだ時期早尚であると私は思う。特に私たちの場合は、ジャングルの中で2000カット以上の写真を撮ることになる。それをデジタルで撮るとすれば、一人で100枚近くのメモリーカードを持ち運ばなければならず、その初期費用は膨大となる。それに、私たちの要求する画質やピクセルサイズを満たすものとしてはまだまだカメラ自体が高すぎるし重すぎる。従って、まだまだ銀塩写真にまさる方法は他にはないのである。ただし、マルチメディア素材だけを目的とし、3人から4人のチームで取材にあたれるならデジタルも悪くはないかもしれない。小型のデジタル・カメラにメモリーカードを数枚。それにラップトップ・コンピュータと光磁気ディスク・ドライブなど外部ストーレージさえ用意してゆけば、むしろ、撮影ミスなどということが絶対に防げるだけ有利である。しかも、最近、はやりのインターネットを使って世界中にしかもリアルタイムにマヤ・レポートが発信できることにもなる。私たちの取材も、やがてはそうなるだろうことは確かである。

 コンピュータと猫10数匹に囲まれて暮らしていたジュリアンが、昨年、サンフランシスコの上空で結婚式をあげ、最近、パル・アルトに彼らしい新居を構えたというので見にいった。新居は、アプローチにアーチを施したスペイン風の瀟酒な家で、その時は、ちょうどISDNの工事中であり、大小6つか7つかある各部屋に端子を設け、近々に家中にネットを張るめぐらせる予定だという。 ジュリアンの仕事部屋には、中央の大きな机にPower Macintosh 8100 が陣取っていた。そこで、せっかくだから大統領にだけは挨拶しておこうと早速インターネットでホワイトハウスに接続し、とりあえず、" Hello, President ! Take care of Japanese economy, too, please"とだけメッセジを送っておいた。

 スタンフォード大学のブック・ストアも、シリコン・バレーに来た時には必ず立ち寄る場所の一つである。理工学系から人文社会系に至るあらゆる分野にわたって実に豊富な新刊書が揃えられており、情報収集のための格好の場所でもあるからである。今回も、皆ででかけ、関先生などは、たちまちの内に一人では持ち切れないほどの専門書を買い込んでしまった。私も、日本ではまだ翻訳されていない Michael D. Coe の "The Maya" 第2版 、Linda Schele の"A Forest of Kings" などマヤ関係の本を幾冊か仕入れ、ベリーズへの旅の友とすることにした。

 それから約 2時間後、私たちは、いよいよロスアンジェルス、サン・サルバドール経由で ベリーズ・シティーに向かうことになる。


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Editor: Takeo Fukazawa
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