遺跡に着いた時には、既に15、6人程の先客が桟橋のたもとの休憩所で涼をとっていた。40歳から50歳代の男女で、カラフルなその服装からひと目でアメリカ人観光客とわかる。ベリーズにはエコツアーを楽しみに来たということで、バードウォッチングのついでにこのラマナイ遺跡に寄ったのだという。
ラマナイにもガイドがいて、頼めば2時間程で遺跡全体を案内してくれる。サンタ・リタやセロスでもそうであったように、ベリーズの遺跡には、まだこれといった地図もガイドブックも用意されてはいない。そのために短時間で遺跡を把握するためには、とりあえず公認のガイドに頼るのが便利である。
ラマナイの遺跡も、そのほとんどがジャングルに埋もれたままの状態であったが、漆喰のマスクで知られる遺構N9-56はほぼ完全に復元されていた。他に遺構N10-43がわずかに神殿の形をなしており、ジャガーの神殿として知られる遺構N10-9は、修復工事の最中であった。
そろそろ昼飯時であったが、遺跡にはもちろん食べるところはない。そこで案 内されたのが Lamanai Outpost Lodge というロッジだった。遺跡からボートで 約10分ほど南にさがった湖畔に面しており、マヤ風の民家を模したバンガロ ーが6、7戸木立の中に建っている。正面レストランからの眺めは絶景で、ラマナイの周りのジャングルからニューリバー湖を一目で見渡すことができた。
レストランのベランダには、エコツアー風の客たちが既に数人陣取っており、野鳥図鑑などをかたわらに思い思いの会話を楽しんでいた。その内の一人は、カリフォルニアからやってきた生物学者で、現在は、教育コンサルタントとしてエコツアーの世話をしているのだという。日本でいえば、さしずめツアーコンダクターというところであるが、それを生物学の専門家がプロとして成り立たせているのがおもしろかった。
ラマナイで最も印象的だったのは、遺構N9-56の漆喰のマスクだった。高さは約4メートル。制作年代は古典期前期の6世紀頃と推定されている。様式としてはセロスのものと似ているとされているが、ラマナイのマスクは、よりリアルで官能的である。伏し目がちな瞑想風の眼。半ばあえぐように開かれた口。 それは横から見ると、ものに憑かれた「人」の姿であり、正面からは、仰ぎ見る者を威嚇する畏怖すべき「神」の姿に見える。神のマスクは、遺構N10-43と遺構N10-9の基檀にも見えた。しかし、そこでは双方とも極度に風化が進んでおり、原形を推し量ることは容易にはできない。マヤのマスクについては、今後とも注意深く調査を重ね、ゆくゆくはその形と意味の系譜を整理してみたい。